乳腺腫瘍
犬猫の乳腺腫瘍は、最も遭遇する腫瘍の一つです。
早期発見、早期治療がされやすい腫瘍ですが、放置すれば命に関わります。
雌犬の場合、乳腺腫瘍は発生確率の高い腫瘍であり、特に高齢の未避妊犬に多くみられます。また乳腺腫瘍と言っても良悪があり、その比率は半分半分と言われてきましたが、特に大型犬では悪性の比率が高いとされています。悪性の腫瘍は、癌であり、転移や全身への悪影響により生体に多くの不利益をもたらします。
雌猫の場合、発生率は全ての腫瘍の中でも第三位ですが、その大半が悪性とされています
症状
乳腺腫瘍には良性と悪性があります。犬の乳腺腫瘍の場合、良性と悪性の割合が半々であるのに対して、猫の乳腺腫瘍は大半が悪性であることが知られています。初期症状としては丁寧に胸を触ったとき、皮膚の奥の方にコリコリする塊がやっと確認できる程度です。しかし、症状が進行すると腫瘤が自壊(破裂)し出血が続き、元気・食欲等が低下していきます。悪性腫瘍の場合は全身転移を起こし、最悪の場合命の危険を伴います。
診断方法
細い針を刺す検査方法も存在しますが、腫瘍が良性か悪性か判断する為には、切除手術を実施し病理検査のもとで判断します。肺への転移に関しては、レントゲン検査かCT検査により確認する事が可能です。
再発率をいかに低く抑えるかということに主眼をおき、治療してゆきます。
治療
外科的摘出
乳腺腫瘍が確認された患畜はまずは身体検査により、全身状態に問題が無いか、肺などへの遠隔転移が無いか、などが調べられます。
問題が無ければ良悪問わずに外科手術による早期摘出が治療の第一選択となります。
乳腺腫瘍を早期摘出するメリットは2つあり、
ひとつは、良性腫瘍であってもそれが将来的に悪性に転化する可能性があるという事です。実際、良性腫瘍を持つ犬は健常な犬に比べて悪性腫瘍に対する9倍のリスクがあるとされています。
もうひとつは、そもそも乳腺腫瘍自体の悪性度の判定自体が難しいという事です。摘出以前に腫瘍の良悪を判断する方法の一つとして、針を用いて、腫瘍細胞を吸引し、顕微鏡で確認する細胞診断というものがあります。しかし乳腺腫瘍というものは細胞同士の性質上、この細胞診断にて良悪の判断をつけることが非常に困難であり、近年では判断をつけてはいけないと言われています。乳腺腫瘍の良悪の判断は組織摘出後の病理組織診断に依存します。乳腺腫瘍であるという診断は手術前に行われ、摘出された腫瘍組織によってのみ良悪の判断がなされることになります。
化学療法「抗癌剤」
悪性の乳腺腫瘍に対して、抗癌剤が有用であったことが報告されております。
当院では患畜の健康状態と病症に合わせて、ドキソルビシン、カルボプラチン、また抗癌剤ではありませんが副作用の少ないピロキシカムといったお薬を用意しております。
放射線療法
犬、猫の乳腺腫瘍に対する放射線療法の有用性は明らかになっておりません。
避妊手術
予防的治療であり、乳腺腫瘍は雌の性ホルモンであるエストロジェンとプロジェステロンとの関連が示唆されております。実際、未発情で避妊手術を行った犬の乳腺腫瘍の発生率は未避妊の犬に比べ0.5%(その差200倍)と言われています。すでに発情が来てしまった犬でもその有用性は示唆されており、当院では乳腺腫瘍摘出を行う全ての患畜に避妊手術を行っております。
乳腺腫瘍の発見は比較的容易で、飼主様自身が腹部のしこりに気づかれて来院します。胸からお腹にかけてコリコリとしたしこりが触れる。最近発情でもないのに乳腺が張ってきた。など、気付かれた事があればいつでもご相談下さい。